ペニンシュラ型

~私とあなたの不可避な壁~

『チェンジリング』涙の感動作とかの文言を嫌って見ないのは早計です。実際にあった取り替え子の話と聞いて興味が湧いたなら見るべき。


タイトルにも記述したとおりなんですよね。どうも公式ページとか予告編の作りとか見ると感動作として売り出したいようですが、そっちの話を期待して見に行くとあんまりな感想を持っちゃって残念な評判が広がりかねない。というか仮にもPG-12作品にそんなの期待して見に行くなと私は言いたい。
でも、私みたいに行方不明の子供が帰ってきたと思ったらそいつは別人で、警察に文句言っても相手にされず、マスコミに公表したら強制的に精神病院送りにされたって言う展開(しかも過剰演出ほとんどなしの実話)に興味が湧いたのならば見た方がいいと思います。
この話自体には興味引かれるけど、涙とか感動っていうフレーズで敬遠しているのなら絶対に見るべき。
予告編の前半部分は良く出来てると思うんだけど、どうも後半は情緒に訴えかけすぎてる気がするのでちょっと苦手そうだ、と思う人がいそうなのがもったいないと思う。
そういう方には日本版のサイトの作りはあんまり良くないと思うので、どうぞ以下の海外版のサイトを一度ご覧あれ。


こちらでは、感動のための味付け程度にしか取られかねない日本版の“実際にあった話”の売り出し方に比べて、違う意味で積極的に実話であったことを押し出してることが分かると思います。*1
見てもらえば分かる通り海外版サイトの画像は当時のNYタイムスの実際の記事だそうで。
実際私もカンドーがどうのとか苦手なので、最初はおっかなびっくり見てましたが、なにが感動だ、ものすごく考えさせられるわい。とてもとても骨太な作り。
逆にこれはクリントイーストウッドを押し出さないのは正解かもしれない。


まず、作りが非常に細かい。時代考察もしっかり出来ていると思うし。当時のファッションとかも素敵。
見ていてとても分かりやすい。それぞれの話のパーツの見せ方をとても考えて作られているので主人公の感じる不安とか違和感が痛いほど伝わってくる。
役者さんも良い演技をされてらっしゃる。ミスを認めない警部のうさんくさい表情とかも、もちろん良かったんだけど特筆すべきは子役の巧さと、何よりアンジェリーナジョリーの役への入り込み方。
子役の子たちが喋らなくても演技が出来ているし、子供ならではの不安そうな顔とかセリフがなくても各キャラになれている。
アンジェリーナはなんか私は妙にアクションのイメージが強いのだけど全然印象が違った。作品の中で目立ち過ぎず、なおかつ芯の強い女性を演じられてると思う。というか途中完全にアンジェリーナジョリーだということを忘れてしまうレベル。


そして、自分の子供を探すシングルマザーという本筋の中に当然だけど、様々な主張が練り込まれている。
まだまだ女性蔑視の時代だったことにもよるフェミニズム的視点から見ることはものすごく簡単だし、不都合なことがあれば相手を精神病院に送ってしまう*2ことに代表される警察というか権力の暴走、などなど。
一番背筋が寒くなったのは精神病院に主人公が送られてからの一幕。同じ様に警察に楯ついたために精神病院に送られてきていたキャラクターが主人公にアドバイスをするのだけどその内容が、(細かい文面までは正確に覚えていませんが意味だけ取って頂ければ)
「(医者は警察の言いなりで、初めからまず結論ありきで病気と断定してみてきているから)明るくふるまえば興奮症、落ち込んでいれば鬱、中庸であれば不感症と診断され、病院から出ることは出来ない。」
いや、どうすればいいねん。


そんな感じでかなりの秀作だったチェンジリング。ちょっと気になる程度ならぜひ見てみるべきです。
最後話の展開にしっくりこなかったりする人もいるかもしれませんが、私は多分あの結末になって正しいと思うし、そもそも現実にあったことなので、文句も付けられませんよ。
あと音楽も良かった。



ググってみたらネタバレなしで面白いレビューがいくつかあったので紹介。


こちらは鑑賞後の人へのちょっとした補完用。まだ見てない人は完全に映画ネタバレになるので絶対にダメですよ。というかこの作品、予習ほとんどなしで見た方が絶対に面白いと思う。

 

*1:というか原題には思いっきりtrue storyって入ってるし

*2:作中ではコード12と呼ばれる