ペニンシュラ型

~私とあなたの不可避な壁~

どこにでもある作品ではないと思うます  『月光橋はつこい銀座』感想



私という猫』のイシデ電先生の新刊。面白かったのでおすすめるよ。
ただ表紙の雰囲気とかから分かるように私という猫の中でも厳しい方の毛色の作品ちょっと違うのでそういうのを求めて読みたいって人には微妙かもしれないのでちょっと注意しとく。


今は懐かしき下町の乾物屋さんの姉弟が主人公。
時代設定はそれこそノスタルジックな雰囲気を感じさせる昭和だとか高度経済成長期のような錯覚を起こさせるのだけど、よく見ればこの作品の世界は確実に昭和以後の世界であり、携帯やパソコンこそ出てこないもの非常に“いま”に近い時代。90年代中盤くらいといえば一応ツジツマは合うような気がする。


中学生の姉のりとおバカな小学生の弟タケの視点で基本的に物語は語られる。
あれくらいの子供の見る世界っていうのはそりゃあ小さな世界で偏見にもおかしなイメージにも包まれまくっているわけだけど、それでも見ているものは見ているし、大人が隠しているつもりのものだってしっかり分かっていたりする。
そんなところをしっかり描いている作品だからほっこり読める。
しかも子供は子供でも、ちょうど背伸びしたい年頃ののりといかにもマンガ的なおバカなお子様なタケ、そのほかにも個性豊かな彼女らの友人たち、という風に子供キャラクターの中でも巧く役割が分けられているのでずいぶんと読みやすい。
個人的にはハラケンが好きですね。ハラケンといえば電脳コイルですが、コイルのハラケンとは全くもって正反対なのですがこっちはこっちで良いキャラをしとる。


子供キャラクターといえば表情の豊かさでございますが、この人は猫でも表情描き分けられるくらいなんだからそりゃもう顔が良く変わる。
そしてその表情の豊かさは子供に限ったことじゃない。肝っ玉おばあちゃんも酔いどれ父ちゃんもメランコリーな母ちゃんもみんな色んな表情を見せるし、コマ割の独特さも相まって彼らの顔や気持ちが画面の中にとっても映える。


なんていうか情報量を適切に調整してある作品だと思う。
ほっこり和んで笑いたい時にぜひ。
おすすめる。