やっぱりこの方は偉大 【T・Pぼん スペシャル版第一巻】
T・Pぼん 第1巻 スペシャル版 (1) (希望コミックス) 著者: 藤子 不二雄F 発売日: 2008-09 | |
僕は幼少時代、『ドラえもん』と『キテレツ大百科』とかで育ってきたようなものだと(勝手に)思ってるので、藤子・F・不二雄先生の作品は本当に大好きです。
でもだからこそ、そういった有名な作品以外のF先生の作品をたくさんの人に読んでほしいと思います。
F先生の作品は、あまりにもドラえもんが有名になりすぎてしまったために、子供向けな作品、単にやさしい作品が多いと誤解されていることが多いように感じられます。
でも実は、『ミノタウロスの皿』なども有名ですが、F先生の作品の中には厳しさだとかブラックな要素、世の中の不条理さ、というものがたくさん描かれているのです。*2
では、この作品の簡単なあらすじを Wikipedia から引用(ちょっと改変してます)
ある日、平凡な中学生・並平凡(なみひら・ぼん)は、偶然T・P(タイムパトロール)隊員の少女リームと出会った。
T・P隊は未来に本部を置き、過去に不幸な死を遂げた者で、なおかつ生存しても歴史の流れに影響しない者の救助活動を行う。T・Pの存在を明らかにすることは禁じられており、通常は記憶消去装置を使用することで被救助者をふくむ周囲の人々の記憶から自分たちに関する記憶を消去していた。
しかしタイムパトロール隊には、タイムトラベルの秘密保護のため、T・Pに関する記憶が消去されなかった第三者で歴史に関与しない者は、過去に遡って存在そのものを消し去ってしまうという冷酷な規則があった。そのため、リームのうっかりミスから記憶が消去されなかった凡はT・Pに消されそうになる。
ところが凡は歴史に何らかの影響を及ぼす存在であることが判明し、困ったT・Pは凡を隊員に任命することとなる。
というわけで、タイムパトロール隊員になったぼんのお話が始まります。
これだけ読んだら安易な設定の様に感じられるかもしれませんが、この短い文章の中にさえ、大変なことが隠されています。
>リームのうっかりミスから記憶が消去されなかった凡はT・Pに消されそうになる。
消されるって、文字通り“存在”を消されそうになるのです。T・Pはぼんの両親が結ばれない様に歴史を改変しようとする。
たまたまぼんが歴史に影響を及ぼす存在だったからよかったものの、そうでなければぼんは、うっかりミスが原因で存在を抹消されそうになるのです。なにこの不条理。
巻末に佐藤勝彦教授の解説が載っていて、その中で「藤子先生ならではの優しいSF」と評されてるのですが、ある面ではこの説明は間違っていると思います。
優しく人々を救っているのは、あくまでタイムパトロール側だけであって、その人々が命を落とす原因のほとんどが人間のエゴ、権威への執着、盲信だったりするのです。*3
そのタイムパトロールでさえ、いとも簡単にぼんの存在を消そうとした。
実は優しいどころか、人の醜い、眼を逸らしたい部分が描かれてる。
魔女裁判にかけられる少女を助けにいくお話があるのですが、少女が拷問され、火あぶりにかけられるシーンなど本当に恐ろしいし、残酷なのです。
また、あくまで歴史に関係のない範囲でしかタイムパトロールは活動できないので、どんなに目の前の人々が苦しんでいてもそれが歴史に関わる人物、出来事なら主人公たちは対処することが出来ない。この不条理さ。
こんなのばっかり書くと暗いお話に思われそうですが、一編一編、最後はちゃんとハッピーエンドで終わります。
世界の不条理さ、人間のエゴなどを描くのですが、それをしっかりうけとめて、肯定しようとする。そういう意味ではやっぱりこれは「優しいSF」なのかもしれません。
とてもいい作品なので是非一度、読んでみてください。
関係ないですがF先生といえば、『SF短編PERFECT版』っていうホントにパーフェクトな短編集があるのですが、絶版でなかなか手に入りません。
僕も4巻以外はなんとか所持してるのですが、その4巻が本当に手に入らないんです。
あぁ復刊してくれないかなぁ。
今見たら、Amazon では品切れの様なので楽天のリンクも張っておきす。
[rakuten:book:13035543:detail]