ペニンシュラ型

~私とあなたの不可避な壁~

あなたの歌

中学の頃といえば、思春期真っ盛りの頃だ。
あの頃特有の恥ずかしさみたいのが色々な所にあってみんなの空気全体にもけだるさがかんじられた。
正確にいえば、本当の意味でのけだるさじゃなくてあくまでけだるく見える様に振る舞っていただけなんだろうけど……


そんな中では何かに真面目に取り組んだり、一生懸命やったりするのはカッコ悪い、みたいな風潮があった。
となると、授業なんかを熱心な様子を見せて受けるやつはそういない。
受験にあまり関係ない音楽の時間なんてなおさらそうだ。ちゃんと歌を歌う生徒なんか皆無である。
みんな隠れて数学だとか英語の勉強をしたり、こっそり漫画を読んでたりするやつもいた。


でもそんな中、彼女だけは一人楽しそうに歌ってた。
彼女はとても歌が上手でソプラノの綺麗な声をしていた。
僕も彼女の様に歌いたかったけれど、恥ずかしさで声を上手く出すことが出来なかった。


高校に入って、合唱コンクールみたいなイベントが校内で行われた。妙にテレて歌いたがらない男子連中のなかにいても、何故かその時の僕は思ったように歌うことができた。
音は外してたかもしれないけど彼女の様に歌えていた。



今でも一人鼻歌を口ずさんでいる時に、ふと彼女のことを思い出すことがある。


あの頃、どうして僕は彼女と一緒に歌えなかったのだろう。